市 の 猫 |
むかしむかし、この辺りがまだ開ける前のお話です |
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粂造の家では、ゴンタと呼ばれる犬と、テツと呼ばれる猫がいます。犬のゴンタは、荷物を運ぶときに引っ張ったり、夜には見張り番などをして働いていますが、猫のテツは何も出来ることがありませんでした。 |
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人間達は、テツを見ると、「お〜い、テツ、お前も何か手伝って呉れないか〜」とか「テツはイイナー、何時もひなたぼっこで」とか、特に忙しいシーズンには「あーあ、猫の手も借りられたらなー」と云います。 |
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ある日、粂造は変な事を言い出しました。自分たちは、毎日畑を耕し、野菜を作り生活をしているが、遠くに見える山には、人が住んで居ないのだろうか?まだ見た事もない海では、人はどんなものを食べているのだろうかと疑問に思いました、里の人達に尋ねてみましたが、この時代、自分の生まれた村から離れて、よそへ行くなんて、せいぜい隣の村までくらいが関の山です、誰もそんな事は知っている者がいません。 |
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しかし、村の村長は少し意見が違います、「自分がしようと思う事を実行する時が一番力が出る時で、ひとがしない事をするのが大切な事、反対する人の云う事を心配するより、自分でしようと思うなら、命を張ってでも行きなさい」と今まで聞いた事のない厳しい口調で云いました。 |
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道なき道を何日も進み、やっと山の人達が生活をする集落を見つけました。 |
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粂造とゴンタは、何日か居候をしていましたが持ってきた野菜を置いて、次は、海で生活をする人を捜すために山を下り何日経ったか、やっと海に近い村を探しました。 |
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ゴンタは、帰る時にサンマを一匹もらい仲良しのテツに持って帰ってやりました。 |
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それから何日経った頃か、粂造が暮らす里の村に、山の村の人と、海に近い村の人とが尋ねて来ました、そして両方の村の人から、粂造は意外な事を聞かされました。 |
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村の人達とも相談しました。 |
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ある日テツが聞きました、テツはゴンタに山の村までどんな道だったか、海の村までどんな道だったかと。 |
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それからというものは、野菜の収穫、ひえの収穫、キビの収穫が出来る度に、テツは山へ、海へ使いに行きます、テツが使いに来ると、山の人達は肉と野菜を交換に来ます、海の人が魚と交換に来ます、時には、山の人と海の人とも交換をする様になり、山の人も、海の人も、テツが使いに来るのを待つようになり、「猫が招きに来るのはまだか」、猫が招きに来て呉れると、山の村も海の村も、みんながおいしいものが食べられると云う事でお祭り気分で、楽しみにする様になりました。 |
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又、山の人も、里の人も、海の人も、猫のテツの事を「招きの猫」と呼ぶようになっていたことから、テツが居なくなってからも、良いことが起きるまじないに、布で作った猫を飾り、幸せを招く猫としてみんなが祀る様になり、何時の頃からか焼き物でも作る様になりました。 |
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この「市の猫」は中西市場のお話です。 |